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ドラえもんに学ぶ「正義の暴走」

ドラえもんに学ぶ「正義の暴走」


ドラえもん第23巻に収録されたおそるべき正義ロープ」というエピソードがたった10ページの尺で簡潔明瞭に語りきってくれています。

なんと本作は昨今においても問題視される不寛容社会への鋭い指摘を示唆しています。「正しいのはいつも俺だ」というジャイアニズムでのび太をいじめるジャイアン。

その乱暴狼藉に「正しいものが泣かされて悪者がいばっている」といつも通りドラえもんに救助を求めるのび太。それに同調したドラえもんがポケットから取り出した道具がこの「正義ロープ」でした。

要は悪行を働いた人間をこのサイボーグ製の「正義ロープ」が感知すると自動的にその対象者を物理的に縛り上げる機能を秘めたひみつ道具だったのです。そして乱暴狼藉を働くジャイアンを「正義」の名の元に縛り上げて本懐を遂げることに成功。

ところがここで事態は急変。彼らの管理ミスによってビンに保管されていた残りのつる草の種が全て外の世界へ放り出されてしまうハプニングが発生してしまいました。

増えすぎたロープによって単なるズル休みの嘘やポイ捨て程度のマナー違反ですら縛り上げられてしまう惨事を招いてしまう羽目に。ひみつ道具に人の行動が監視されるディストピア社会の襲来としか言えません。

  • 無軌道に増殖した正義は人々から自由と快適性を過度に奪い去ってしまう凶悪な諸刃の剣だったのです。

これは昨今のSNSを巡る炎上騒動等を巡る諍いを鑑みれば体感的に理解できる方も多いかと。不寛容社会と揶揄される所以とも密接に関係しています。

  • 行き過ぎた正義によって全てが本末転倒へ

事を察したドラえもんたちは正義ロープのスイッチを切ってしまうのですが・・・

それは同時にこれまで「正義」によって縛り付けられていたジャイアンやスネ夫をその枷から解き放つこれまた諸刃の剣だったのです。

そしてラストの一コマ。暴走した正義で他人を縛り付けていたドラえもんとのび太が自らの自由を束縛されて身動きが取れなくなってしまう皮肉めいた結末で物語は幕を閉じるのでした。


  • 行き過ぎた「正義」を振りかざし続けると必ずやその揺り戻しが返ってくる。

そんな教訓をこのドラえもんとのび太の行動から。そして冒頭で「正しいのはいつも俺だ」と豪語したジャイアンもまた正義ロープの力でそのしっぺ返しを受けているという点は絶対に見逃せません。

トランプ大統領を生みだしたポリティカル・コレクトネス | ASREAD

同時にこのエピソードは昨今の世界を取り巻く「ポリティカル・コレクトネス 」とそれに対する反発が生じるメカニズムを簡潔に読み取れる側面も有しています。行き過ぎたポリティカル・コレクトネスによってアメリカ人はポリコレ疲れを感じてしまい、ここから脱却すべくドナルド・トランプというそれからほど遠い人物を合衆国大統領に選任したのが大きな要因の一つだと言われています。このポリコレの誕生とそれによって行き過ぎた縛り上げが原因で発足したトランプ政権樹立までの流れは、この正義ロープのシナリオの流れと似ているのは気のせいでしょうか?

世のあらましが安定と混乱を繰り返して複雑化していくように、我々の世界もまた行き過ぎた正義とその揺り戻しによる複雑化の連鎖によって人類の歴史が積み上げられているのではないか。本作が描かれたのは

そんな人の業の本質ともいえる要点を子供向けに視覚化してしまった藤子・F・不二雄はやはり天才なのではないかと改めて再認識させられてしまう素晴らしいエピソードでした。

コマ引用:「ドラえもん 第23巻 おそるべき正義ロープ」|藤子・F・不二雄作


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