ボイストレーナーへの道のり ⑨ ブライダルシンガー(後編~充実した日々~)
ボイストレーナーへの道のり ⑨ ブライダルシンガー(後編~充実した日々~)
(3) ブライダルの仕事との出会い
イベントで歌ったり、コンサートをやったりもしましたが、事務所関係の仕事で一番多いのは「結婚式で歌を歌う仕事」でした。
これまで歌わせてもらった結婚式・披露宴を数えれば、軽く1000組は超えています。
初めの頃は、ただ、心を込めて歌うことに集中していました。
事務所的にも、初めは決められた曲を決められたシーンで失敗なく歌えればOKといった感じでした。
しかし、仕事を続けてゆく中で、もっと奥深いものだと分かりました。
そしてこの仕事との出会いこそが、ボクの音楽的な感性を大きく育ててくれたのです。
(4) 空気を「読む」「変える」「動かす」 ~脇役としての音楽~
ブライダルの仕事の特殊性を一言で言うなら「歌が脇役であること」と言えます。
ライブやコンサートでは、基本的に歌い手が【主役】であり、自分が責任を持ってお客さんを楽しませなくてはいけません。
ですがブライダルにおいては、歌い手は結婚されるお二人(主役)を引き立てる【脇役】という立ち位置なのです。
新郎新婦よりも目立つようなことがあれば、それはもう大失敗です。
かと言って、ただ控えめに歌っていてもお二人を盛り上げることは出来ません。
大失敗にはならないかもしれませんが、それなら音源を流すので十分です。
生演奏ならではの魅力を伝えることは出来ません。
生演奏ならではの魅力を伝えることは出来ません。
では、どんな風に歌えばいいのでしょうか?
ブライダルの仕事に慣れてきた頃から「会場の空気を読む」ということがとても重要だということがすぐに分かりました。
まずは物理的な空間認識です。
お二人の歩くスピードと高砂までの残された距離とを考えて、このまま歌い続けるのか、サビをもう一度繰り返すのか、などを瞬時に判断する能力が必要です(詐欺的事務所の代表がデモしてくれたやつです)。
これがかなり難しいのでした。
そういったことに対応するために常にアンテナを張り巡らせていると、だんだん他にもいろんなことを感じるようになってきます。
「今日のお二人はとても緊張してはるな」とか、
「今日の来賓の方たちはなんか温かい感じだな」とか、
心理的な空間性を認識できるようになってくるのです。
そして、そこで感じた空気感のようなものを、歌を通じて
明るくしたり、
楽しくしたり、
ハッピーにしたり、
感動的にしたり、
できる感覚をボクは手にするようになりました。
明るくしたり、
楽しくしたり、
ハッピーにしたり、
感動的にしたり、
できる感覚をボクは手にするようになりました。
これは感覚の話なので、何らかの周波数を調べたり、その場にいる人の脳波を測ったりしたわけではないので、科学的に証明できるものではなりません。
ですが、これは、ボク自身とその会場にいる人に起きている紛れもない事実でした。
新郎新婦や二人を祝う人たちに対して自分の声で一体何が出来るのか、毎回真剣勝負でした。
ちょっと抽象的な話で分かりにくいかもしれませんが、歌を歌いながら自分が歌う先の相手や空間に意識をフォーカスしてゆくと、自分が会場全体と一体になる感覚が起こってきます。
そして、会場と一体となったボクが声を通じてその会場の空気を動かしたり振動させたり温めたり爽やかな風を流したり雨を降らしたりするような感じなのです。
こうした感覚の起こらない時も沢山あります。
というよりもすごくリアルな感覚というのは、起こらないときの方が多いです。
それでも、自分が歌わせてもらった新郎新婦は絶対に幸せになるんだ、という気持ちで仕事に臨んでいました。
「そんなのきれい事だよ」と思われるかもしれませんが、そうした思いが持てたからこそ、ブライダルで歌う仕事を続けてこれたし、空間的な感覚に気付くこともできたと思っています。
この頃は、ライブはせずに、仕事で歌うことばかりをやっていました。
「今はこれでいい」と思ってましたし、無理にライブをすることはないと思いました。
毎日がとても充実していました。
ボイストレーニングの仕事も軌道に乗り、週1から週3~4回に増えました。
ブライダルの仕事もどんどん増えて、毎週土日祝はスケジュールが入っているような状態でした。
29歳で居酒屋のバイトを辞め、音楽の仕事一本にしました。
両親に「30歳までに喰えなかったら音楽辞める」と宣言していたボクは、何とか滑り込みでギリギリ間に合って、無事音楽を続ける事ができたのでした。
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