「世界現代怪異事典」はオカルト書き必読のネタの宝庫

突然だが朝里樹著の「世界現代怪異事典」をご存知だろうか。

怪異界のベストセラー『日本現代怪異事典』待望の世界編!
スレンダーマン、サラエヴォの呪われた自動車、バズビーズチェア、モンスの天使、アナベル人形、ピー・ガスーなどの怪異から、ネッシー、オゴポゴ、ヴァンパイア・キャット、モンゴリアン・デスワームなど怪物まで。20世紀以降に世界各地で語られた怪異・怪物を800種類以上掲載。世界の怪異、決定版!
本文は、怪異・怪物を、アジア、オセアニア、北アメリカ、南アメリカ、ヨーロッパ、アフリカ、その他の地域ごとに50音順で紹介。
コラム、項目索引、怪異世界年表ほか、國學院大學 飯倉義之准教授、南台科技大学 伊藤龍平助理教授、横浜国立大学 一柳廣孝教授ら、怪異界の著名人3名から特別寄稿をいただく充実の内容。
中・高生から怪異好き社会人まで、幅広く楽しんで頂ける「読む」事典です。

……というオカルト好きのオカルト好きによるオカルト好きのためのネタ事典。

全世界の怪異に纏わるエピソードを蒐集して地域別に収録しており、メジャーどころではスレンダーマンやブラッディメアリー、マイナーどころではピー・ガスーやモンゴリアン・デスワームに至るまで、バケモノ・妖怪・精霊・幽霊・悪魔・UMAの情報を項目ごとにまとめている。

書店で見かけてパラ読み後に購入したが、オカルト好きの知的好奇心が満足したのはもちろん、これからオカルトやホラーを書こうとしている人、あるいはもう書いてる人は（可能なら朝里氏の前著の「日本現代怪異事典」と併せて）絶対持っておいたほうがいい。

というのもネタの宝庫だから。

ぱらぱらめくってるだけで「お、これ次の話のネタに使えそー！」っておいしいネタがとびこんでくるから。

端的に例を挙げたい。

フーディー

インターネット上で語られる怪異。着た人間を狂気に陥らせるというパーカーで、表側は黒、裏地は白の一見普通のパーカーであるという。このパーカーを着てフードを被るとひどく暴力的になり、その衝動を抑えられなくなるという。またこの衝動は、暴力をふるうと大きな快感を得られるようになるため、次第に狂気に呑まれてしまうようだ。

お前はどこのジェノムだ！！！

……とまあそんな具合に俗にいうクリーピーパスタ（海外の都市伝説を集めたサイト)初出のネタもしれっとでかっとのっかっているのだ。

ネット創作が多く、有名なスレンダーマンやジェフザキラーもこのサイト発祥である。語源はコピペ＆ペーストと、アメリカで手軽に食べられているパスタから）が多数おさめられており、その内分けはポケモンのベリードアライブの都市伝説やシオンタウン症候群、ゼルダのベン・ドラウンドにまで及ぶ。マンインクラフトのヒロブラインなんて知らなかったぞ。

知らない人に軽く説明すると、マンインクラフトとはブロックをほぼ無限大にだだっ広いフィールドにおいて街や家を作っていくゲームであって、その中に登場する謎のキャラクターがヒロブラインである。

ゲーム内で操作する主人公のデフォルトの姿に似ているが、目の部分は白目だけで、ゲーム内のブロックを使って謎の構造体を製作したり攻撃してきたりする（らしい）。その正体は製作者が子どもの頃に死んだ弟と囁かれている……（らしい）。

世界中の民話や神話を集めた本は夥しく出版されてきたが、本著は上記のようにこれまで無視されがちだったネット発祥のオカルトやゲーム作品の虚実入り混じる説も、クトゥルフやブードゥーの神々や祟りなす悪霊と区別せず同列の存在としてキチンと押さえている。

一個一個の分量こそコンパクトだが、コンテンツ化された情報量でいったら屈指。

古の神々や精霊の民話や逸話、アメリカ開拓民が好んだトールテール（荒唐無稽なホラ話）、そして近代～現代の都市伝説まで貴賤を問わず整理されているため世界中のちょっと変わった話や不思議な話、怖い話や不気味な話好きはページをめくっているだけで充足感が得られる。

短いものは数行、長いものでも２ページちょっとなのでサクサク読み進められるし、日本じゃ国民的な知名度を得たトイレの花子さんが厠所的女鬼の花子（ホワツ）として台湾に進出してたり、日本のこっくりさんが欧米のウィジャボードだけじゃなく、韓国の分身沙婆や台湾の銭仙と言われる類似の交霊儀式とルーツを同じくしていたり、思いがけないところで思いがけないエピソードがリンクしてスピンオフストーリーが派生していく構図が非常に面白い。

「死霊館」や「ポルターガイスト」などホラー映画の元になった現象や事件も収録されているので、すぐ索引できるのが有り難い。

裏表紙のマスコットキャラ（？）がとってもおちゃめでかわいいので見てね。