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機動戦士ガンダムサンダーボルトに学ぶ「ブランディング戦略」

機動戦士ガンダムサンダーボルトに学ぶ「ブランディング戦略」


機動戦士ガンダム サンダーボルト」にて描かれたあるエピソードから。

この作品に企業のブランド戦略について実に興味深い描写があったので挙げてみましょうか。舞台は一年戦争終戦後の連邦軍宇宙基地ルナツーにおける一幕。

そこに搬入されてきたアナハイム社から「ブルG」という名を宿した新型のガンダムタイプと思わしきMS。頭部に双眼のデュアルセンサーとV字型アンテナを装備したデザインはまさしくガンダムタイプそのものでしょう。

(※Gブルとは無関係なので悪しからず)

 

しかしルナツー勤務の連邦士官であるボーマンはこのブルGが抱えていたある錯誤に気付いてします。

なんとこのMSはガンキャノンの発展試作機にガンダムヘッドを挿げ替えただけの代物でした。しかも頭部をガンダムに換装しただけでスペックはガンキャノン時と大差ありません。

全ては一年戦争時のガンダム神話に縋る連邦上層部へのニーズとそれを自社製品にブランディングしてしまうアナハイムの強かな商業戦略の賜物でした。ところがアナハイムの竜頭蛇尾なブランド製品はブルG一機のみでは無かったようです。

連邦へのブランディング戦略でガンダムの名を宿しただけで性能はそれ未満のMSを売りつけるアナハイムのやり口に怨嗟の声を上げる様子のボーマンの一コマで一連のやり取りは幕を閉じます。ちなみに下士官が読み上げたリストに上がっていた「ガンマ・ガンダム」は後の時代に「リック・ディアス」という改名を経て戦場で活躍する未来をこの時は誰も知りません。


さて、サンダーボルト本編では時に「世界に邪悪を撒き散らす元凶」と強い言葉で糾弾されてしまっているアナハイム・エレクトロニクス社ですが。

この描写から実態以上の商品にブランド価値を付加してより高く売りつけるブランディング戦略の要諦を読み取ることもできます。少なくとも漫画の作中でアナハイムがガンダムタイプのMSをブランディング化して連邦軍へ売りつけてにあたって以下のような戦略が為されていました。


  1. ブランドネーム・ロゴ・意匠を明確にする事で他の商品との差別化
  2. 一年戦争時の「ガンダム神話」に基づいた安心感を根拠とする
  3. 最終的にガンダムブランドの虜になるあまり「オカルト信者」と揶揄されるレベルの顧客が創造される
 

まず、ガンダムのV字アンテナは元々V作戦への象徴という形で付与されていました。ところが一年戦争終戦後もガンダムからV字アンテナが継承され続けていったのはアナハイムによるブランディングを演出するための都合だと考えられます。目が二つあって額にV字のツノが付いているという特徴は他のMSにない外観をしていたのでこれをブランドのロゴにするにはちょうど良かったのでしょう。だからガンキャノンの顔をガンダムロゴの頭部にするだけでハイエンドブランド商品の出来上がりです。

そしてブランドにニーズが生まれるのは顧客に安心感が生ずる事に起因します。その点兵器としてのガンダムはたった1機で100機以上の敵機MSを撃破したスコアがありますから連邦軍への製品のブランド性を担保する神話としては十分でしょう。そこにニュータイプという常人を超越したパイロットがガンダムを操縦していたという「神話の裏話を敢えて無視すれば」、ですが。

最後にブランド化された商品を熱心に支え続けるのは時に「信者」とも揶揄される熱狂的な人間たちです。これは現実世界においてもApple製品を熱心に買い漁って賛美するApple信者と呼ばれる人たちの様子を見れば一目瞭然かと。作中でガンダムに神通力があると錯誤してしまっているのもこうしたニーズがあるからです。

このようにアナハイムは自社の生き残り戦略として地球連邦相手に展開するガンダムブランディング商法によって「死の商人」と揶揄されながらも、この先の歴史でも繁盛を続けていくことになるのでした・・・。

コマ引用:「機動戦士ガンダムサンダーボルト」|太田垣康男作(小学館『ビッグコミックスペリオール 2020年 11号』掲載)


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