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超難問!早稲田大学商学部一般入試国語2016年度現代文のいちばんやさしい解説

超難問!早稲田大学商学部一般入試国語2016年度現代文のいちばんやさしい解説


この解説は、入試国語史上最も難しいとさえ言われる2016年度早大商学部現代文をわかりやすく解説している。

赤本・青本の解説がわからない受験生が対象、問題文と赤本青本を用意してから読むこと。


(まず、問題文を読む。赤本青本を手元に置いていつでも参照できるように。)


問題文の出典は若林幹夫『未来の社会学』(河出書房新社)だ。

出典が書かれていないので、問題がさらに難しくなっている。


論説文の出典は、大きなヒントになる。


「未来」を論じるときは「時間」の概念が大事だ。「時間」の概念は「社会」の有りようで変わることが前提だ。

西洋と東洋のように地域でも違う。また、中世と近代のように歴史的にも違う。


出典のヒントがないので受験生は自分で気付かなければならない。

この文章は「未来」を「社会学」的に論じたものなのだ。


次に、単語に惑わされないようにすること。

筆者は英語での論文を読みなれているので、日本語ではニュアンスが違うと判断した単語は英語を使っている。「プリコラージュ」や「project」は気にする必要はないが「ネーション」には注意が必要だ。


「ネーション」が「国家」より広い意味を持つので、文中で「国家」と同列に扱われたり別の意味で使われたりして読み手が混乱しやすい。

(どうしても単語がわからなくて文章がわからなくなる場合は「~というもの」をつけて一旦定義を保留する裏技がある。「ネーションというもの」と置き換えて読んでみる方法だ。)


さて、論説文読解は要旨をまとめることから教えるものだが、青本の要旨がよくできているのでサクっと省略する。

【問一】漢字書き取りも同様だ。


【問二】「出題の原則」を意識すること。

①文章冒頭の傍線部は、根拠が線より前にあることは少なく、線より後にあることが多い。

②出題者は正答を作ってから誤答の選択肢を作る。


①について

文章の最初は「命題」のことが多い。これから何について論じるのか、だ。傍線部の前も関係はあるが、文章を進めるとわかることが多いのだ。


②について

どういうことかというと、出題者はまず正答を作るのに「文章中の表現を別の言い方で表す」ことがとても多いということだ。

そして、誤答は文章中の単語を使ってそれらしく書く。

パターン

・文中の言葉を使っているが意味がでたらめである

・ほぼ文章の内容なのに一部だけ違っている

・文中に全くないことが含まれている

だ。

青本のように間違いを消す「消去法」でもできるのだが、赤本の解説でいいと思われる。


傍線部と同じことが第三段落にある。

”時間が人間存在に外在しつつ、その進歩や発展を推し進める力であるなら、その力は人間存在全般に働くはずだ。”だ。

だから「人間に外在する時間」は即ち「人類に外在する時間」になるのだが、出題者はさらに深く読み取ることを要求しているので、最終段落まで使って正答を作っている。

最終段落の「反復し、循環して生じるような過去」が近代以前の時間のあり方なので「物事が繰り返されることで蓄積される」という書き換えをしている。

一番悩むのは「人類の知」だが、これは第一段落にある「経験」の置き換えなのだ。



【問三】では傍線部を含む文を簡単なことばで書き換えてみる。


“現在を意味づけるものが大地のような過去や伝統から、過程としての進歩や発展に変わることで、社会や世界は「より高次の秩序」に向かうものとして時間化=歴史化されると共に、時間そのものが「進歩」を推し進める「力」として了解されるようになる。”

          ↓

“現在を意味づけするものが「過去や伝統」から、「進歩や発展」に変わりました。そのことで社会や世界は「以前より高い段階の秩序」に向かいます。同時に時間そのものが「進歩」を進める力になります。”


それでは「高次の秩序」とは何だろう?


第一段落

”私たちにとっての問題は、そうした均質で空虚な時間を生み出した近代が、同時にまた集合的で進歩主義的で、空間拡張的で、主体的あるいは主意主義的で能動的な期待や展望と共にあるものとしての未来をもつ社会であることはなぜなのか、ということだった。”


問題提示そのものの文だ。筆者は「こうした」「そうした」を多用する癖があるようだ。また、並立的な(同じくらい重要な)単語を並べる傾向も強い。簡単なことばで書き換えてみよう。


”私たちにとっての問題は、そうした均質で空虚な時間を生み出した近代が、同時にまた集合的で進歩主義的で、空間拡張的で、主体的あるいは主意主義的で能動的な期待や展望と共にあるものとしての未来をもつ社会であることはなぜなのか、ということだった。”

          ↓

”近代における未来が色々な意味で期待や展望とともにあるのはなぜなのか、だ。”

「未来」という単語が浮かび上がってくる。論拠はここだ。

ここで筆者が近代における「未来」は期待や展望と一緒にあるものだと言っているからだ。つまり「現在」よりもいい状態が「未来」と予想され期待されるのだ。



【問四】傍線部

”進歩とは、不可逆的で空虚な時間、数量的で抽象的な時間を前提としつつ、それを再度意味づける意味論なのだ。”

三五字で抜き出す、という指定はぴったり三五字であることを示するから、これはヒントだ。

候補は何ヶ所かあるが、問題に「具体的な」とあるので具体的でなければならない。


では、傍線部を簡単なことばで書き換えてみる。


”進歩とは、不可逆的で空虚な時間、数量的で抽象的な時間を前提としつつ、それを再度意味づける意味論なのだ。”

          ↓

”進歩とは意味論だ。”


「意味論」でわからなくなると思う。

「意味について研究する学問」だ。


”進歩とは意味論だ。”

          ↓

”進歩という概念の意味や変化を改めて考えよう。”


傍線部の直前にも「意味論」という単語がある。


”「進歩」の観念は、流動化や不安定化した社会が、そうした流動や不安定をもたらした個々の出来事をバラバラで混乱した無秩序なものではなく、規則だった一連の過程として了解することを可能にする意味論なのだ。”

          ↓

”変化した社会が無秩序ではなく規則のあるものと了解するために「進歩」を理解しなおそう。”


しかし、この箇所は三五字では切り取れない。


”流動して不安定化する社会が、自由や富や知識などの肯定的な価値が増大してゆく一定の方向性をもった過程にあるものとして了解される時、「進歩」や「発展」の観念が成立する。”

ここにたどり着けばあと一歩!「三五字」「具体的」を頭に置いて数えればいい。


”自由や富や知識などの肯定的な価値が増大してゆく一定の方向性をもった過程”

ここだ!だから解答は「自由や富」なのだ。



【問五】なぜ逆接の接続詞「けれども」を使っているのかが聞かれている。

つまり「けれども」の前と後では違うことが書かれているのだ。


前の文は

”この時、進歩は人類の歴史を貫く客観的法則と見なされる。”

後の文は

”近代的な世界で実際に進歩の担い手=主体として現れたのは、抽象的な観念としての人類であるよりむしろ、具体的な言語や歴史や伝統や領土の共有に媒介された「想像の共同体」であるネーションであり、ネーションの国家としての近代国民国家だった。”


簡単なことばで書き換えよう。


”人類が進歩するのではなくネーションが進歩するのだ。”


選択肢では二がひっかけ選択肢だ。「具体的な国家」が間違っている。「想像の共同体」だからだ。(赤本青本と解説が違うが、私はこう考えた。引っかけるために一ヶ所置き換えて選択肢を作ったのだろう。)



【問六】

「そうした地域への空間的な進出」を一般的には何と呼ぶか、だが「一般的」「漢字二字」ですぐには思いつかなかった人が意外と多いのではないだろうか?


「侵略」だ。


これは言葉の知識だ。

最近では世界史の教科書も「侵略」という単語を慎重に使っているので、「植民」「侵入」の誤答が考えられるが、部分点ももらえないだろう。語彙の問題なのだ。



【問七】なぜ「ありあわせの素材」が有効だったのか、元の傍線を読んでみる。


”これらの過程で、言語、文化、歴史、領土など、流動化し変動する社会で集合的な同一性を担保する`ありあわせの素材`を器用仕事して形成されたネーションという観念が、世界の各地で共時的かつ通時的な共同性を可能にする想像力の形式として採用されていった。”


「これらの過程」はこの段落の前半すべてだが、全ておきかえる。

「器用仕事(プリコラージュ)」は無視だ。

          ↓

”ヨーロッパ諸国の非ヨーロッパ世界への進出の過程で、`ありあわせの素材`で形成されたネーションという観念が、世界の共同性を可能にしました。”


では「ありあわせの素材」とは何だろう。

具体的に言うと「言語、文化、歴史、領土など」だ。

”集合的な同一性を担保する”

つまり

”元々共通でなかった言語、文化、歴史、領土などにヨーロッパの価値観を与えることで、集合としての同じ基準を一時的に与えた”

わけだ。


選択肢は赤本青本ともに消去法で説明している。

私がすさまじいなと感じたのは、誤答選択肢に全部「伝統」が入っていることだ。


「伝統」は「ネーション」の形成要素だが、この傍線部は「ヨーロッパ諸国の非ヨーロッパ世界への進出の過程」だ。非ヨーロッパ世界に元々あった伝統はヨーロッパの価値基準で置き換えられたのだ。それによって「ヨーロッパ諸国のネーション」に組み込まれたのだ。ここは世界史の「帝国主義」「列強の進出」を参照。


「非ヨーロッパ諸国の先住民には、すでにヨーロッパにあった言語、文化、歴史などを使い、また領土的に植民地化することによって、非ヨーロッパ諸国もヨーロッパ諸国と一体化したと思わせた。」


そう書いてあるのは「ニ」だけだ。他の選択肢はまず「ありあわせの素材」を「伝統」と受験生に誤認させようと作られたものだ。



【問八】傍線部を言い換える。

”この共同体にとって、現在の様々な活動の結果現われる未来が現在よりも進んだものであることが、現在を意味づける。”

          ↓

”人類そして民族や国民とその国家にとって、現在とは、今より進んだ未来があることで意味を持つのだ。”


生物にとって時間は、地球が自転することで一日が公転することで一年が感覚できるもので、今日と明日に大きな違いはないから「周期的な性質」が強く感じられ、時計も暦も周期的なものが古くから使われた。

しかし、「進歩」という変化の概念を加えると時間は「周期的な性質もあるが長い目で見れば直線的に進んでいるものである」という認識が生まれたのだ。


「二」が紛らわしい。「想像されたものにすぎないネーションの空虚」ここがひっかけ選択肢だ。"「想像の共同体」であるネーション"という表現はあるが文中にある「空虚」という単語は時間の変化の過程であってネーションと結びつかない。「ネーション」がよくわからないまま読み進めると間違うだろう。

「イ」と「ハ」は文中の単語をそれらしくつなげた選択肢だ。



【問九】空欄Aの続きは

”Aが未来においても反復し、循環して生じるような過去”とあり、

過去のことを選ばなければならない。


「ロ」と「ハ」が紛らわしいが、「予測可能な」では反復循環しない。これは「趨勢」の意味がわからないと難しいかもしれない。「物事が進むこと、またはその勢い」だ。過去から現在まで「進歩」という変化があった事実から推測して「未来」は現在より進歩したものととらえられる、と述べているのだ。あくまで推測で、どんな未来になるかの予測まではできないのだ。「投影project」に惑わされないように。



【問十】「五字以内の語句」だから、ぴったり五字とは限らない。

まず、傍線部までを説明する。


「時間」はかつて周期的に繰り返すものとして捉えられていた。本文中何回か「大地のように」の表現があるのは「時間論」で特に農耕民族にとって季節の巡りが時間の感覚だったことを指す。本文の中に説明はない。

近代における「未来」は「進歩するもの」と認識が変化したが、過去と切り離されたものではない。過去から現在が進歩したから未来も進歩するだろう、という推測だ。

では、「進歩」を意識させる要素はなんだろうか?ここでは傍線部より前から語句を探すべきである。


これは、全部「周期的な時間の感覚は農耕民族がより強く持っていた。農業にとって『暦』は大変重要だからだ」という知識が下敷きにある。本文中にはない。だから「大地」や「自然」という単語が出てくるのだ。

それがわかっていれば、第五段落の「科学技術とその発展」が解答であると見つけられる。五字以内なので「科学技術」だ。



【問十一】選択肢を選ぶための技術が必要な設問だ。


傍線部の「この意味」を聞いているのだが、ごく単純に言い換えると

”過去より現在が進歩したのだから未来は現在よりいいものだ”

だ。

そしてそれは「主観」だと傍線部直前で述べているのだからハは間違いだ。


出題者は正答を作ったあとに誤答を作る。どこを間違いにしているのか見つけよう。


イは「進歩が歴史を作った」とは書かれていないことに注意だ。本文で「進歩」は「未来を推測させるもの」だ。

ロは主部と述部だけ取り出すと「進歩は歴史を作り出している」になる。これなら誤答であることに気づきやすいだろう。「作り出して」はいない。なんだか本文がわからなかったのでなんとなく選ぶ人がひっかかりやすいように単語を拾っている。こういうときは主部と述部に単純化すると見分けやすい。

そしてハは「客観的な価値を持っている」が間違いなので、正解はニになる。



【問十二】赤本がロ、青本がハと正解が現時点では違っている問題だ。

そして、全体の理解度を問う問題だ。


イとロだが、「ネーション」は「想像の共同体」であるという部分が重なっているのでいかにもどちらかが正解に見える。

しかしイは「時間的な広がりを空間的な広がりと同一化」が主旨から外れている。本文中の「空間的な広がり」は、【問六】の「侵略」、つまり異文化への領土拡大を指する。

ロは「進歩という概念を時間の中に位置づけて」も相当にあやしい、誤答を作るために本文からそれらしい単語をつなげた部分なのだが、「伝統に変換する」が決定的に間違っている。「進歩」は過去における「伝統」と同じであると言っている部分(【問十一】傍線部)はあるが、それは「変換」だろうか?そして「未来」は「進歩」を「伝統」にしているだろうか?選択肢を単純化するとおかしなところが見えてくる。【問十一】のイと同じように作られた誤答だ。

ハとニは、「恣意的な」「必然的な」が真逆。ニは「必然的な」も違うし「進歩によって流動化」が本文に合わないので誤答だ。


この問題は総まとめなので、本文のあちこちに根拠が散らばっている。

また、ここまでの設問も正しく理解していることも要求される。



以上が2016年度の早稲田大学商学部一般入試現代文の解説だ。

高度な一般教養、つまり受験科目以外の高校での世界史の知識と現代文における語彙が必須の問題だ。そして、時間を取り上げた他の出題を解いたことのある受験生には有利だ。「時間論」として読み解ける文章だからだ。

このレベルの難問が出題されたとき、


他の受験生も解けないから!


落ち着こう。

そしてケアレスミスだけはないように解こう。


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完全在宅で小遣い稼ぎ!持病があるので外で働けません。在宅ワークを活用しています。特技は川柳・詩・切り絵・ライティング。アニメオタクなのでオタク川柳で過去に一位神を受賞しています。文章は調子のいいときなら一日一万字書けます。今はそういう無理はしていません。

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