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【小説】魔法使いとくまのぬいぐるみ

【小説】魔法使いとくまのぬいぐるみ






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魔法使いのシャルルは、魔法がうまく使えません。
 
同い年の仲間たちはみんなもう魔法が上手に使えているのに、シャルルはどうしてもうまくいきません。
そのことで、シャルルは仲間にひどいことを言われます。
 
 
「お前みたいな奴を、落ちこぼれって言うんだぜ」
 
「魔法使いのくせに魔法が使えないなんて、この村から出てった方がいいんじゃない?」
 
「ほら、早く出ていけよ」
 
 
その中心になっているリュカは、魔法がすごく得意。
 
偉そうに腕を組んでシャルルを見下しています。
シャルルは唇を噛んで、それに耐えていました。


 
ある日のことです。
村を出て森の中を散歩していると、いつもシャルルに嫌味を言っている仲間たちが何かを囲んで立っていました。
 
なんだか気になり、そっと近づくと、ぼろぼろになったくまのぬいぐるみがいじめられていました。
シャルルはどうにかしなきゃ! と思い、近くにあった枝を拾います。
 
 
「何をしてるんだ!」
 
 
シャルルは勇気を振り絞って声を掛けます。
仲間たちは振り返り、シャルルを馬鹿にしたように笑います。
 
 
「魔法の使えないお前に、何ができるんだ」

「自分の身も守れないくせに、ぬいぐるみを守るつもりか?」
 
 
くすくす笑う仲間に向かって、シャルルは枝を振り上げます。
しかしその枝はシャルルの手からするっと抜け、リュカの顔に当たってしまいました。
 
 
「あ、ごめ……」
 
 
謝ろうとするシャルルをリュカは睨みつけ、そのまま仲間たちと森を出ていきました。
シャルルは慌ててくまのぬいぐるみに駆け寄ります。
 
 
「こんなにぼろぼろになって……かわいそうに。僕が君を綺麗にしてあげるね」
 
 
シャルルはお母さんに頼んで、ぬいぐるみを綺麗にしてもらいました。


 
そしてその夜、シャルルは何かの声で目を覚ましました。
 
 
「やっと起きた。おはよう。まだ夜だけど」
 
「……君は、くまさん……?」
 
「そうだよ。だけどボクにはニコラって名前があるんだ。そう呼んでくれる?」
 
「わ、わかったよ。ニコラ」
 
 
戸惑いながら、シャルルはニコラに返事をします。
 
 
「ちゃんとお礼を言ってなかったと思って。助けてくれて、どうもありがとう。君がいなかったら、ボクはもうだめだったよ」
 
「そ、そんな、僕は何もしてないよ」
 
 
シャルルはそう言って、落ち込んだように肩を落とします。
 
 
「そうだよ。僕、魔法もちゃんと使えないし、だめだめなんだ」
 
「ボクからしたら、君は立派な魔法使いだよ。魔法を使えるのが一番偉いのかい? ボクはそうじゃないと思う。助けてくれようとしたその気持ちと勇気が、一番大切だと思うよ」
 
 
ニコラはそう言って、シャルルの頭をぺしぺし叩きました。
慰めているつもりなのでしょう。
 
 
「だから顔を上げて、堂々としていいんだ。……そしてよかったら、君の名前をボクに教えてくれないかい?」
 
 
首を傾げるニコラの姿に、シャルルは思わず笑ってしまいました。
 
シャルルとニコラは、とっても仲良しになりました。
仲間たちに嫌味を言われても、もうシャルルは気にしません。
 
しかしそんなシャルルの様子が、リュカは気に入らないようでした。
 


 
 
「ニコラー? ニコラー!」
 
 
シャルルはニコラの名前を呼んでいます。
毎日同じ部屋で寝ているのに、朝から姿が見当たらないのです。
シャルルは村中を探し回ります。
 
 
「おいシャルル。リュカの奴を見なかったか?」
 
「え? いいえ、見てません」
 
「そうか。どこ行っちまったんだろうなぁ。ありがとう、シャルル」
 
村の大人に言われ、シャルルは考えました。
もしかしたら、リュカはニコラを連れ出してしまったのかも知れません。
シャルルは慌てて、村の外へ出ていきました。
 
 
「またいじめられてたらどうしよう」
 
 
シャルルは一生懸命森の中を探します。
そしてしばらく歩くと、シャルルは崖の上に着きました。
 
そこにはなんと、崖から落ちそうになっているリュカとニコラの姿がありました。
 
 
「ニコラ! リュカ!」
 
「……シャルル」
 
リュカは顔を歪めます。
ニコラはリュカの頭の上でぴょんぴょん跳ねています。
 
 
「ここだよ、シャルル! 助けて!」
 
「お、おい。跳ぶな!」
 
 
リュカが慌てた様子で、手に力を入れました。
崖にぶら下がっているのは、リュカ一人なのです。
 
シャルルは困った顔をしてリュカの元へ駆け寄りました。
魔法の使えないシャルルは、自分の力でリュカを引っ張らなくてはいけません。
 
 
「引っ張るよ!」
 
「早くしろ!」
 
 
リュカは泣きそうな顔をしています。
この状態では、得意な魔法を使うこともできないのでしょう。
シャルルは力を振り絞ります。
 
 
「がんばれ! シャルル!」
 
 
ニコラも応援してくれています。
シャルルは一生懸命、手に力を入れました。
 
その時です。
リュカとニコラが空高く飛び上がり、ふわっと地上に着地しました。
 
リュカはぽかんとシャルルを見ます。
シャルルもその顔を見返します。
 
 
「お前今の……魔法、だよな」
 
「……や、やっぱり、そうなのかな」
 
「なんだよ! やればできるじゃんか!」
 
 
嬉しそうな顔をするリュカを見て、シャルルは驚いた顔をします。
リュカはハッとしたように、目を逸らしました。
 
 
「……え、えっと、助けてくれて、ありがとう」
 
「他にも言うことあるでしょ?」
 
 
ニコラが腕を組んでリュカを睨んでいます。
 
 
「……ぬいぐるみ、勝手に持っていってごめん」
 
「う、うん」
 
 
シャルルはまだどこか驚いた顔をしています。
ニコラはとことことシャルルに近付きます。
 
 
「見つけてくれてありがとう、シャルル。やっぱり君は最高の魔法使いだよ」
 
「そ、そんなことないよ」
 
 
照れくさそうに笑うシャルルを、リュカが険しい顔で見ます。
それを見て、ニコラはこっそりシャルルに言いました。
 
 
「……リュカはね、君と友達になりたいんだって」
 
「そんなこと言ってないだろ!」
 
「違うの?」
 
 
ニコラの問いに、リュカは目を逸らします。
 
 
「どうしてもって言うなら、遊んでやってもいいぞ」
 
 
ニコラは大きくため息をつきます。
しかしシャルルは、嬉しそうに笑いました。
 
 
「うん! 一緒に遊ぼう!」
 
 
そうしてシャルルとニコラ、そしてリュカは――少しずつですが――とても仲良しになりました。
 

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