魔法外科医は癒やし系少年~涼波ハルカの進撃-07 ☸ ソメイの冒険者試験
魔法外科医は癒やし系少年~涼波ハルカの進撃-07 ☸ ソメイの冒険者試験
魔法外科医は癒やし系少年~あらすじ
魔法外科医って結構、大変なお仕事。さらに転生者の受け入れまで。ほのぼのあり、シリアスあり、アクションあり、ギャグあり、ほどよくエッチもありの逆異世界転生ファンタジー。
<ロビ様、血管とかひとつずつ繋げていますけど、ぶわぁって治る治癒魔法というのは無いのですか?>
<あるよ。あるけど、あれ、障害が残るんだ>
<どういうことでしょうか?>
<切れた患部がぴったり合っていれば綺麗に治るんだけど、ずれているとそのまま治っちゃってリハビリが大変なんだ。特に太い血管や筋肉はちゃんとやらないと>
<なるほど、勝手に元通りになるわけじゃないんですね>
<そう。だから、障害を残さないよう、元通りに結合していくんだ>
(ハルカの世界では、魔法って、随分と便利なものと解釈されているんだな)
※本小説は、「小説になろう」、「カクヨム」、「アルファポリス」、「ノベルバ」、「ノベルビア」にも投稿しておりますので、お好みのサイトで読んでいただければ幸いです。
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魔法外科医は癒やし系少年~涼波ハルカの進撃-07 ☸ ソメイの冒険者試験
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ナンチェリは、ソメイを連れて建物の中に入った。建物の一階はダイニングバーになっており、何人かの冒険者が酒を飲んだり食事をしている。奥に別のカウンターがあり、そこが冒険者ギルドの受付である。受付には女性が立っていた。
「よお、レティーナ」
「ナンチェリ、こんにちは」
「こんにちは」
「そちらの方は?」
「こいつはソメイ。俺のパートナー。今日、冒険者登録をする」
「ナンチェリ、女の子連れなんてひどいです。私を一度も誘ってくれたことがないのに」
「いや、ソメイはマジで強いんだ。ビビるぞ」
「でも、その子と事を致したんでしょ?」
「ま、まあ、な」
「どうして私としてくれないんですか?前は何度も熱い抱擁を……」
「それは、俺が小さかった時に勝手にレティーナが抱きしめていただけだろ、みんな勘違いしているぞ」
ナンチェリがソメイを見ると、何やら笑いをこらえているようだ。
<どうしたの?>
<言葉はわかりませんが、いつもより乱暴に喋っていることはわかります。なんか、それが可笑しくて>
<あはは、まあ、そういう場所だからね>
「馬四体の世話代と、冒険者試験代だ。依頼分は後で」
ナンチェリはカウンターにお金を置いた。
「馬の方は水と餌をやっておきます」
「ああ、頼むよ。今日の試験官は誰だ?」
「アゼクスです」
「ちょうどいい」
カウンターから少し離れたテーブルでワインを飲んでいた体格のいい男が、ちらりとロビの方を見た。
<ソメイ、今から冒険者の試験をする。試験は模擬戦。アゼクスは森林で戦うことを得意としている>
<あたし、大丈夫でしょうか?>
<ソメイなら大丈夫。勝てなくてもしっかり戦えれば冒険者には合格する。最初のレベルを決めるための試験なんだよ>
レティーナはギルドマスターを呼んできた。ギルドマスターは上品そうな男性で、大きな布を耳まですっぽり隠れるよう頭に巻いている。
「ナンチェリ、最近、ご無沙汰でしたね。あなたへの依頼、溜まっていますよ」
「そうか。今日は冒険者試験に来たんだ。頼むよ」
「はい、かしこまりました」
<ソメイ、この人がギルドマスターだよ>
<冒険者ギルドで一番偉い人ですか?>
<そう。あと、どの冒険者よりも強いらしいよ>
<意外です>
ギルドマスターはアゼクスに銀貨五枚を渡した。
「アゼクス、冒険者試験、頼みます」
「おうよ。じゃあ、試験場所を選びな」
<ソメイ、アゼクスは強い。それに魔石獣狩りでの戦いも上手い。だから勉強させてもらうつもりでいいよ>
<はい、わかりました>
「じゃあ、森の中で」
ソメイの代わりにナンチェリが答えた。
「ほお、そいつ、よっぽど強いってか?」
「ソメイの実力はなかなかのものさ」
<ソメイ、アゼクスは鎖でつないだ二本の斧を使う。そのため、槍や
<がんばります>
アゼクスは身体もでかく、態度もでかいが、それだけの実力、策略を持つ冒険者である。
<ソメイ、森の中に赤い縄が見えるだろう?あれの外に出ずに、アゼクスと戦って>
<赤かどうかはわかりませんが、大丈夫です>
アゼクスは、アゼクス専用の木でできた二本の斧を持ってきた。鎖の代わりに太い縄が使われている。ソメイは、木箱の中から
<開始の合図が出たら教えるからね>
<はい、ナンチェリ>
「じゃあ、始め!」
<開始だよ>
ソメイとアゼクスはいきなり突進した。
アゼクスは打ち合う……と見せかけて、視界から消えた。次の瞬間、上から飛んできた斧をソメイは
(うまい、ソメイはちゃんと追いかけている)
アゼクスは縄を木の枝の折れた部分に引っかけて急速方向転換を行った後、片方の斧を振り投げて縄をほどきがてら斧で攻撃を加えたのだが、ソメイはしっかりと動きを追っていた。
「ほう、やるな」
アゼクスは木の陰から斧を投げ込むように振り込んだが、ソメイの踏み込みの方が速く、手に持っていた方の斧で
しかしソメイは、既に付近の木の配置を把握しているのか、一瞬、後方を確認しただけで後ろの木の幹を蹴って横に飛び、別の木の裏側に回り込んだ。
(さすが、ソメイ、それなりの訓練を受けていただけあって周辺もしっかり把握済み。なんか、違う意味で恐ろしいかも)
アゼクスは猛ダッシュで飛び込み、斧を振り回すように投げ込んだ。木の後ろに回り込んだソメイをそのまま巻きつけて動きを封じようとしたのであろう。
(え?もうそこにいるの?)
ソメイは既に木の上に登っており、木の枝を蹴って自由落下を超える猛スピードで下にいるアゼクスに飛び込んでいた。
「うっ」
(ソメイ、強い、怖い……)
鈍い音がした。
(あらら、ソメイ、すごいや)
「ソメイ、すごいぞー!」
周囲から歓声が上がった。地面に着地したソメイの後ろでは、アゼクスが頭を押さえてのたうち回っていた。ソメイはあっという間に冒険者ギルドの人気者となった。
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ギルドマスターは先に受付に戻っており、冒険者登録のための書類を用意している。ナンチェリはギルドマスターに話しかけた。
「ソメイの冒険者試験の結果は?」
「ソメイのランクは初期登録最高のランク三にします。本当は五にしたいところですが規則なので」
「ああ、わかっている。大丈夫だ」
<ナンチェリ、あの、あたし……>
<ソメイはすごいな、アゼクスに冒険者試験で勝った者は初めてじゃないかな>
<そうなんですか?ナンチェリは?>
<僕の時は別の人。でも、アゼクスには魔法無しじゃ勝てないよ>
ナンチェリ達がカウンターから戻ると、次々と冒険者たちが来てソメイに称賛の言葉をかけていった。
「さすが、ナンチェリのパートナーって言うだけあるな、すごいぞ」
「ナンチェリに飽きたら俺たちとパーティーを組んでくれ」
「俺、あんたの動き、見えなかった。今度、教えてくれよ」
「アゼクスがのたうち回るのを、初めて見たぞ、いいものを見せてくれた」
「ありがとうございます」
ソメイは言葉の意味をほとんどわかっていないはずだが、お祝いを言われているのはわかったようでニコニコしながら、お礼を言った。そして、何杯ものワインがソメイとナンチェリのテーブルに置かれた。
<みんな、アゼクスが負けていい気分になっているよ。ワイン、プレゼントだってさ>
<皆さん、アゼクスのこと、嫌いなんですか?>
<いや、みんな大好きで尊敬しているよ。とても面倒見のいい冒険者だから。すごい瞬間を見ちゃったって感じかな>
<そうですか。あたし、獣人族だけどいいんでしょうか>
<これは秘密なんだけど、アゼクスは魔族で、普段から魔力を使って身体強化をした状態になっている。その強さは獣人族を上回ると言われている>
<魔族ですか。見た目に変わりはありませんでしたが、ヒト族や獣人族と何が違うのですか?>
<魔族にもいくつか種族があるけど、体内に魔石を持っていて、マナを吸収して魔力を扱うことができる>
<じゃあ、魔法が使えたりするのですか?>
<魔法とは言えないけど、魔力を使って魔法と同じようなことができる。いくつかの固有能力を持っているよ。僕たちは魔石獣と同じく、魔能力って呼んでいるけど>
<そうですか>
<アゼクスの場合は、身体強化と索敵かな。あと、子どもをあやすのが上手。街の子どもたちに大人気>
<本当ですか?怖そうで全然そんな風に見えません。でもそれ、魔能力と全然関係ないですよね>
<さあ、どうなんだろうね>
ナンチェリはテーブルの上に並んだ木製のジョッキを見た。
<せっかくだからワイン、頂こうか。この街の北、第三辺境警備団の向こうに有名なワイン産地エナフがあるんだけど、エリクのワインも負けず劣らず美味しいんだ>
<あの、どうやって飲めばいいのですか?>
<口元の布、細い糸で編んだものだから、顔を隠したまま飲むことができるよ>
<はい、じゃあ、冒険者試験合格、乾杯!>
<ソメイの世界では『乾杯』って言うんだね。この世界では『
<ナンチェリ、これ、美味しいです>
<ソメイの好きな白ワインだね。その中でも甘めでかなり口当たりのいいやつだ>
<ところでナンチェリ、今、私たちは何を待っているのですか?>
<冒険者カードが出来上がるのを待っているんだ。今、ギルドマスターが加工している。ちょっと見に行こうか>
ナンチェリはソメイを連れ、受付の隅にあるワークデスクのそばに行った。
ギルドマスターはワークデスクの上で、金属製のカードと金属製の札を並べて彫り物をしていた。冒険者ギルドが保管している札と冒険者カードを合わせると、彫り物がつながって所属の証明となる。
「ソメイ、ナンチェリ、もうちょっと待っていてくださいね。今日は特別ですから」
「わかった。楽しみにしている」
ギルドマスターはにこりと笑った。
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