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日本語(関東方言)の「母音の無声音化」(6)

日本語(関東方言)の「母音の無声音化」(6)


日本語(関東方言)の「母音の無声音化」(6)

前回第5問
https://topview.jp/t62a7545a3bd9b-3925
の回答例:

「目覚ましどこだ?」の「し」は「ど」が後続(つまり有声子音 [d] が直続)するのになぜ(通常)無声音化するのか?
ただしその際、条件として「それは例外だから仕方がない」といった「例外処理」という形ではない説明を試みてください!

という問でした。

以下、解答例です。

「ある種の音韻領域(=「音韻語/韻律語」)内で」という要因を設定する根拠があります。それについて考えてみましょう。

a. 目覚ましはどこだ?

b. 目覚まし、どこだ?(ただし、「、」で特にポーズをおかない発話)

上の a、b の「し」の母音 [i] は、(「は」の子音 [ɰ] も「ど」の子音 [d] も共に「有声音」である以上)無声音化が適用されない筈です。
ところが実際には、a では無声音化が適用されず、b では適用される(発音が可能です)。

結論から言うなら、この対比は「音韻語(phonological word)/韻律語(prosodic word)」という音韻領域を想定することにより説明されることになります。

a では「目覚ましは」が「音韻語/韻律語」(「は」は前接辞(enclitic))、
b では「目覚まし」が「音韻語/韻律語」です。
そこで、母音の無声音化の適用領域を「音韻語/韻律語内部で」とすれば、問題の対比は正しく説明されることになります。

さて以上、6回にもわたって長々と述べてきましたが、日本語(関東方言)の「母音の無声音化」の話はこれでおしまいです。お疲れ様でした。
本当は、もっと追求すべき点があるのですが(例えば、以下)、まずはここまでといたしましょう。

α.「です。」の [ɯ] が無声音化するのは、<[s] と 語末の「無音(非有声音)」とに挟まれている>からとしました。
  でも、もしそうであるなら、「うす」の「う」 [ɯ] の場合は<「無音(非有声音)」と [s] とに挟まれている>というようにまさに<ミラーイメージ(鏡像)の関係>にある筈です。
  なのに、無声音化しません。これは一体なぜなのでしょう?

β. 英語では、Chicago の [ɪ] や difficult の二番目の [ɪ] や situation の [ɪ] や city boy の city の [s] と [t] に挟まれた [ɪ] も、また、coots の [uː] や cookie の [ʊ] も無声音化しない、と述べました。
  では、英語では、無声子音の影響で母音が無声音化するケースというのは全くないのでしょうか?

万が一、上の疑問点に興味を持たれた方のために、ヒントだけ差し上げておきます。

α. <発話の開始部(入りわたり on-glide)> vs. <発話の終息部(出わたり off-glide)> の性質の違いに注目!

β. Pat, Tom, Kim 等の出だしの <aspiration(気息音)>に注目!

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