魔法外科医は癒し系の少年~涼波ハルカの喪失-04 ☸ ロビの悪態
魔法外科医は癒し系の少年~涼波ハルカの喪失-04 ☸ ロビの悪態
魔法外科医の少年は癒し系~あらすじ
魔法外科医って結構、大変なお仕事。さらに転生者の受け入れまで。ほのぼのあり、シリアスあり、アクションあり、ギャグあり、ほどよくエッチもありの逆異世界転生ファンタジー。
<ロビ様、血管とかひとつずつ繋げていますけど、ぶわぁって治る治癒魔法というのは無いのですか?>
<あるよ。あるけど、あれ、障害が残るんだ>
<どういうことでしょうか?>
<切れた患部がぴったり合っていれば綺麗に治るんだけど、ずれているとそのまま治っちゃってリハビリが大変なんだ。特に太い血管や筋肉はちゃんとやらないと>
<なるほど、勝手に元通りになるわけじゃないんですね>
<そう。だから、障害を残さないよう、元通りに結合していくんだ>
(ハルカの世界では、魔法って、随分と便利なものと解釈されているんだな)
※本小説は、「小説になろう」、「カクヨム」、「アルファポリス」、「ノベルバ」、「ノベルビア」にも投稿しておりますので、お好みのサイトで読んでいただければ幸いです。
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魔法外科医は癒し系の少年~涼波ハルカの喪失- 04 ☸ ロビの悪態
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オリシス家本宅の広い部屋に通されると、エイナと、もう一人、初老の成人男性がやってきた。
「おい、ロビ、メイアに入れ知恵したの、お前だろう?」
「歴史の話?そうだよ。君はもっと優秀な家庭教師をつけた方がいいよ」
「うるさい、セバス、|隷従首輪《スレイチョーカー》を持ってこい」
「はい、かしこまりました」
(まったくもう、お子様だな)
セバスと呼ばれた執事らしき男は、部屋から出て行き、しばらくして金属の首輪を持ってきた。見た感じ、重さは五キロほどだろうか。大人であるセバスも、軽々は持っていない。
「それ、ウリシア王国じゃ、王立機関以外は所持禁止になっているやつじゃない?」
「うるさい。こいつの首に取り付けろ」
ロビはだまって大人しくしていた。
(ここで反抗して下宿を追い出されると|父様《とうさま》に申し訳ないしな。後で騒いだところでもみ消されるだけだし。それに……)
ガチャリという重たい音とともに、ロビの首に隷従|首輪《スレイチョーカー》が取り付けられた。
エイナは、隷従首輪に触れると、にやりと笑った。
「|施錠《ロック》|隷従首輪《スレイチョーカー》」
エイナの付けている指輪のひとつが光り、魔法陣が現れた。|隷従首輪《スレイチョーカー》がうっすらと光り、その光が消えると共に魔法陣も消えた。
|隷従首輪《スレイチョーカー》と指輪は、|古代魔道具《アーティファクト》のレプリカである。他種族より身体能力が低いヒト族が、存続するために必要な|魔法道具《マジックアイテム》と判断され、注力して解析、レプリカが作られた。実験中、事故で死者を出してしまったこともあったという。
指輪には発動のための文様が刻まれており、魔法式契約をしていなくても魔力を流し込み短縮詠唱することで|隷従首輪《スレイチョーカー》を操作することができる。
「この首輪がどんなものか、わかっているんだろうな」
「ああ、わかってるよ。分解したこともある」
「じゃあ、簡単だ。これでどうだ。|発動《ラウンチ》|隷従首輪《スレイチョーカー》」
指輪が光り、|隷従首輪《スレイチョーカー》が光った。
「痛たたたっ、ちょ、ちょっと、か、勘弁……」
叫び声と共に、ロビは床に倒れ、もがき苦しむふりを始めた。
(痛いふりをするのも面倒だな、エイナの魔力だとこれぐらいかな)
「どうだ、平民という立場よくわかっただろう。これに懲りたら、二度と俺に恥をかかせるな」
「は、恥?ち、ちか、力で、平民を……従わせ、せるのは、貴族の……恥」
「くっ、まだ言うか」
「ああ、何度でもね……痛いって、ああぁぁっ」
(うへ、我ながら名演技……僕には『魔力反射』の呪いがかかっているんだ。放射系の魔力なら九割ぐらい反射しちゃうから、ちょっとしか痛くないよ。ほら、もっとがんばって。ん?そっか、今、魔力放出をしているのは|隷従首輪《スレイチョーカー》だから、これに反射しているんだ。どうせならエイナに反射してくれればいいのに)
ロビがエイナの顔を見上げると、得意げな表情をしていた。
(こういう時はありがたい呪いだけど、自分の放射系魔力も反射しちゃうんだよね。おかげでほとんどの攻撃魔法、治癒魔法などが使えなくて、初等部時代、魔法学の成績はいつも中の下だったな。お、そろそろ、エイナも限界かな。息が荒くなってきた。さぞかしお疲れの様子)
「まあ、これぐらいにしておいてやる」
「エイナ、ちょっと待ってくれ」
「なんだよ」
「君は将来、|当《・》|主《・》|様《・》になる人間だ。こんな中途半端なやり方で懲らしめてはダメだ」
「俺に説教するつもりか?」
「いや、こういうのは徹底的にやらないと、逆に恨まれて反発されるぞ」
「そういえば、父上もそう言っていたな。うーむ、どうしようか」
(ここはベタだけどしょうがない)
「きっと寒くて冷たい部屋で一晩過ごしたら、頭も冷めるかな」
「寒くて冷たい……おお、そうだ、監禁部屋で一泊してもらおう」
「そうだね、それぐらいしないと。その方が、次期|当《・》|主《・》|様《・》として箔が付くというものだよ」
当主様という言葉が心地よいのか、エイナは少し考え込む振りをしながらも、ニヤニヤしていた。
「おい、セバス、監禁部屋に連れて行くぞ」
「かしこまりました」
(馬鹿な次期当主様で良かったよ)
「でも、一人じゃ寂しいな、ここはぜひ次期当主様としてご慈悲を」
「そうだな、それぐらいの方が余裕があっていいか」
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ロビが連れていかれた先は、本宅から長い廊下で繋がる、薄暗い、手荒に仕上げられた石造りの部屋であった。何部屋かあり、ランプは無く、明かりはドアのない入り口側と、鉄格子のついた窓から外の明かりが差し込んでいるだけである。
「ロビ、一人じゃ寂しいだろうから、お前に|相応《ふさわ》しい奴のいる部屋にしてやるぞ。ありがたく思え」
セバスは鉄格子の扉を開けると、エイナの乱暴な口ぶりとは違い、ロビを監禁部屋内へ紳士的な態度で案内した。
「おい、ネネ、出てこい、友だちを連れてきてやったぞ」
暗がりの中に人のような気配はあるものの、動く様子は無い。エイナは|隷従首輪《スレイチョーカー》を|発動《ラウンチ》させようとしたが、|眩暈《めまい》を起こしたのか、ふらっと倒れそうになった。
「エイナ様、大丈夫ですか?」
「おいロビ、そいつ、今日の昼ぐらいから言葉に不自由しているらしいからな、かみ殺されないように気を付けろよ」
そう言うと、二人は監禁部屋から出て行った。
(うーむ、我ながら成功成功。あの程度で魔力切れを起こすとは、エイナにはもっと訓練してもらわないと)
「は、あぁぁっ」
暗闇から|艶《なま》めかしい声がした。
「ハルカ、ロビだよ」
「ロビ!」
「ちょっと明るくするけど、いいかな?」
「わからない」
(|発動《ラウンチ》||微小《マイクロ》|浮遊光球《フロートムーン》)
小さな魔法陣が現れ、収縮して光の玉になった。強い光ではないが、優しくふんわりとした光を放つ玉である。ハルカは部屋の隅で膝を立てて座っているので、ロビは下着を着けていないことにすぐ気が付いた。
体格は既に成人で、三十分ほど前に見たとおり、とてもかわいらしい面立ちである。しかし、着ている服は最小限に身体を覆う程度、そして薄汚れており、首には|隷従首輪《スレイチョーカー》が取り付けられている。
(ひどい匂いだ…ん?でもこの匂い、汚れの匂いだけじゃない……狼、そうか)
ロビはハルカに近づき、頬を優しく両手で包むと顔を上げさせた。そして、お互いの額をくっつけた。ハルカは、この瞬間を待ち望んでいたようで、目を閉じてロビに|促《うなが》されるまま、額を押し付けた。
<ロビ様、助けに来てくださったんですか?>
<ごめん、まだ助けられないけど、会いに来たんだ。ちょうど、エイナの機嫌が悪くて助かったよ>
<エイナ様とはどういう関係なんですか?>
<エイナとは、王立学院中等部の同級生だよ。まず、簡単にこの世界のことを説明するね>
<はい、お願いします>
<ここはウリシア王国という国で、エイナは三大貴族のひとつ、オリシス家の長男。僕の実家は、ここから十キロほど離れたところで魔法外科医院を営んでいる。父親同士が古くからの友人らしくて、オリシス家の別宅を借りて下宿しているんだ>
ロビは、講堂から見える景色や、王都壁の屋上からの景色を思い浮かべた。
<わあ、中世のヨーロッパみたいです>
<君の世界は、ここよりも文明が進んでいるみたいだね>
<ロビ様、ドアが開きました>
<うん、一旦、離れるね>
女性の召使いが食事を持ってきた。ハルカ用の食事は皿に雑に盛られたものである。ロビも同じもので、召使いは申し訳なさそうな顔をした。
「ロビ様、エイナ様からはネネと同じようにと言われているのですが、スプーンなどをお持ちしましょうか?」
「いや、エイナの言う通りでいいよ。ばれたら君が困るだろ?」
「申し訳ありません。器は明日の朝、取りに参ります」
「うん、気を遣わせちゃってごめんね」
盛り付けはひどいが、どれもいい香りのする料理である。
(『|構築《ビルド》|簡易食器《テンプカトラリー》』)
ロビとハルカの目の前に、皿やフォークなどが現れた。ハルカは目をキラキラさせてスプーンを手に取った。
(『|接触念話《コンタクトカム》』)
<ロビ様、これどうやって作ったんですか>
<土魔法の応用で、その辺の壁の岩を使って作ったんだ。簡易版だから二時間ぐらいで砂になっちゃうけど。この料理もきれいに盛り付ければ美味しさアップだよ>
ロビは雑に盛られた料理を、何枚かの皿に分けて盛り付けた。ハルカは美味しそうに食べ始めた。
(ふーん、スプーンやフォークはちゃんと使えるんだ。でも良かった、ちゃんと食欲あって)
ロビは、ハルカの様子を見てほっとしていた。
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