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消化不良のフレイ――『機動戦士ガンダムSEED』批評

消化不良のフレイ――『機動戦士ガンダムSEED』批評


機動戦士ガンダムSEED 80点
 
 2002年から2003年にかけて一年間放送されていた。1991年生まれの筆者は当時小学校高学年で、ちょうどこのアニメの対象年齢であっただろう。当時の筆者はガンダムというもの自体は知ってはいたが、アニメを見たことはなかった。人生で初めて、物語の最初から最後までを見届けたのが、『機動戦士ガンダムSEED』というわけだ。全話を通しで見るのは、リアルタイムで見ていたとき以来のため、およそ二十年ぶりである。月並みな表現だが、二十年以上経った今でも色褪せない、いや、ロシアによるウクライナ侵攻が続いている今だからこそ、刺さってくるメッセージがある。
 
 筆者は熱心なガンダム視聴者ではない。『機動戦士ガンダムSEED』のあと、『機動戦士ガンダムSEED DESTINY』も見てはいたが、こちらをおもしろいとは思わなかった。結局キラが強いだけじゃん、と思った記憶だけが残っている。それ以降、『機動戦士ガンダム00』や『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』も最初は見ていたが、徐々にしんどくなって見るのをやめてしまっている。新たに公開されるガンダムの映画を見ることもなく、もちろんOVAをわざわざ見るようなこともなかった。
 その状態の筆者が久しぶりにガンダムをおもしろいと思うきっかけとなったのは、『機動戦士ガンダム 水星の魔女』である。『機動戦士ガンダム 水星の魔女』は現在放送中のため本記事での批評はしないが、『機動戦士ガンダム 水星の魔女』を見た流れで『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』、『機動戦士ガンダム サンダーボルト』、『機動戦士ガンダムNT』も見ることになった。『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』に関しては、続編が公開されたら見に行こうという気になっている。
『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』を見て舌を巻いたのは、いわゆる富野節だ。エキセントリックなキャラクターが、コントすれすれの動きや表情でしゃべるさまは、今の筆者からすると見ていてとても楽しい。それは物語を批評的に鑑賞しているためであって、物語を没入していて、かつリアリティーを求める価値観を持っていたら、きっと興ざめしてしまうだろう。『機動戦士ガンダムSEED』(直接的に富野由悠季は関わってないけど)を見ていた小学生の筆者は、まだ後者だった。キラの言動がいまいち理解できなかったし、フレイのことも終始邪魔だなと思っていた。今『機動戦士ガンダムSEED』を見て、そういうエキセントリックな登場人物たちのドロドロ愛憎劇もガンダムの持ち味の一つだと思えるものの、やはりフレイの存在はいまいち消化不良というか、後半に行くほど持て余していたように感じる。
 
 というのも、主人公のキラの成長譚が、物語の後半で一応の完結をしてしまうためだ。具体的に言うと、PHASE-35「舞い降りる剣」がそれに当たる。それまで第一話からずっとキラという青年の成長を追いかけていた物語が、アスランとの死闘ののち、第三勢力として立ち上がろうとするラクスの思想に触れ、一つの完成に至る。この時点でキラはもう思い悩むことはなくなったと言っていい。だから「舞い降りる剣」というエピソードは、主人公が新しい機体で戦う要素に加えて、いや、それ以上に、成長した姿が見られることもあって盛り上がるのだ。
 その後の話は、アスランが父との対話を通じてその成長譚に終止符を打ち、それから先は群像劇として展開されていく。脇役たちのドラマをはさみつつ、戦闘シーンをメインにして風呂敷をたたんでいく作業に移っていく。クルーゼとの対話を通じてナチュラルとコーディネーターというモチーフを語る場面もあるが、キラに対する影響という点ではいささか弱い感は否めない。とはいえラスボスはクルーゼだから、脚本制作時のペース配分が難しかった部分だろう。
 
 キラの成長譚が完成してしまうために、キラの幼さの象徴であったフレイにキラが固執するさまは、なんだかちぐはぐな印象を与える。物語の展開としては地球軍にフリーダムとジャスティスの設計図を渡すという重要な役割があるがゆえに、それまでは死なせるわけにはいかなかったのだろう。地球軍が核ミサイルを撃ち始めたあと、フレイはクルーゼによって殺される。キラはフレイの幻影のようなものを見るが、おいおいお前にはラクスがいるじゃないか、と思った視聴者は筆者だけではないはずだ。
 ちなみに地球軍がガンダムを作って、それに対抗してザフトが核エネルギーを使ったガンダムを作り、またそれに対抗する形で地球軍が核ミサイルを打ち、さらにそれに対抗しようとザフトがジェネシスを放つさまは、コントみたいな報復合戦であるが非常にリアリティがあり笑えない。実際に人類はそうやってどんどん武力を激化させ、お互いを殺し合い、滅んでいくのだろうと思う。
 

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ポップカルチャー評論家
専門分野は映画、ドラマ、小説、アニメ
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