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日本アニメ式『アバター』と、存在意義としての「待機」――『翠星のガルガンティア』批評

日本アニメ式『アバター』と、存在意義としての「待機」――『翠星のガルガンティア』批評


翠星のガルガンティア 75点
 
 虚淵玄が脚本に参加しているということで見た。
 アニメーション制作は『攻殻機動隊』で有名なProduction I.G、虚淵玄脚本アニメとしては『PSYCHO-PASS』も同じくProduction I.Gだ。
 一応、原案・シリーズ構成という立場だが、虚淵玄が実際に脚本を書いたのは第一話と
第十三話(テレビシリーズ最終回)のみ。それもあってか、『魔法少女まどか☆マギカ』や『PSYCHO-PASS』に比べると、虚淵玄の作家性はおさえめのように感じた。
 
 ジャンルとしてはロボットアニメということになるが、いわゆるロボットアニメ感は薄めだ。
 主人公はロボットのパイロットだし、主人公が操縦するモビルスーツ的な機体も登場するが、戦闘らしい戦闘は、第一話の前半と、終盤の数話にしかない。
 
 これから見る人のために言っておくと、第一話の前半はほとんどなんの説明もなく主人公と仲間の戦闘シーンが続く。見ているほうは置いてきぼりにされるが、ここは耐えてほしい。CMをまたいで(筆者は有料配信で見たからCMはなかったけど)の後半からストーリーが見えてきて楽しめるようになる。良し悪しの判断は、まずは第一話の最後まで見てからにすることを勧める。
 第14話と第15話はスピンオフの短編だから、見ても見なくてもどちらでもいい。
 
 さて、異星人の主人公が、現地の人々と交流し心を通わせるというストーリー、なんかどこかで見たことあるなと思っていたが、わかった、ジェームズ・キャメロン監督の『アバター』だ。
『アバター』も主人公の地球人が、パンドラという異星に行き、そこで出会ったヒロインを通じて現地の文化や風習に触れ、現地の人々と心を通わせるストーリーだった。
 たまたまだけど、『翠星のガルガンティア』のストーリー後半の海上戦の感じも、『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』に似ている。
 
 水上都市(巨大船団?)ガルガンティアの持つ構造には、色々と想像をかき立てられるところがある。
 作中で多く描写されるのは漁業や工業などのブルーカラーの職業だ。ガルガンティアの主な産業はそれららしい。
 もちろんそれだけでなく第三次産業もある。ホワイトカラーの仕事に従事する人の描写はほぼなかったものの、通貨が存在しているのだから金融業もあると思われるし、電子機器のたぐいも描写されているから情報通信業もあるだろう。飲食店も登場するからサービス業もあるし(エイミーのような未成年に、露出の多い服を着せて踊らせるのもどうかと思うが)、ゲイのホストのような人物が出てきたこともあるからもしかしたら風俗業もあるのかもしれない。
 
 物語の核心に触れている人物は、エイミーの弟ベベルだろう。未来の世界では体の弱い者は排除されると語る(未来の世界に「共存」という言葉がないとチェインバーが言うシーンがある)レドに、非効率の必要性を説く。レドの価値観を変えるきっかけを作る人物だ。
 ベベルはまだ子どもだが、将来どのような仕事に就けるだろう。ブルーカラーが主体のガルガンティアにおいて、病弱な体のままで就ける仕事はおそらく限られている。
 そこで筆者は村上龍の小説『タナトス』のこんな一節を思い出す。
 
オレ達の祖先がやったのは、もちろんそれには気が遠くなるような長い時間がかかったにせよ、外国語の習得なんかじゃなくて、言語の創造だ、そんなことをやった奴は誰だ? 狩りだろうが炎を囲んでのだんらんだろうが言葉なんか要らない、じゃ、誰だ? 死刑囚や奴隷達だろうとオレは思う、あるいは生まれつきからだが不自由だったり弱かったりして狩りに参加できなかった奴らだ、基本的に、弁明が必要で、その弁明だけで死から免れるっていう連中だ、それが言語の起源だ と思う、モノガタリの起源でもある
 
 ベベルは知性を伸ばして、それを活かした職業に就くと思う。例えば、作中でほとんど唯一の頭脳労働を主とする医師のオルダムのように。
 
『翠星のガルガンティア』の主題の一つに、存在意義がある。
 ベベルからヒディアーズがいなくなったらどうするか聞かれたレドは、待機すると答え、なら自分と同じだとベベルに言われるし、チェインバーとストライカーはみずからの存在意義を達成するために戦う(「みずからの存在意義を達成しようとする人工知能」は、虚淵玄脚本のアニメ映画『楽園追放 -Expelled from Paradise-』にも登場する)。
 何より、『翠星のガルガンティア』が、主人公レドの成長譚である。レドがみずからの存在意義を問い、社会活動を通じた自己実現という答えを得るまでの話だ。変にヒロインのエイミーに依存しないのもいい。
 

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ポップカルチャー評論家
専門分野は映画、ドラマ、小説、アニメ
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