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金怨

金怨



 税務署から通知が来た。
どうやら調査したいとの事、しかたねえから許可してやる。
後日2人組のスーツを着た男がやってきた。
嫌な感じだ。

「ーーそれでですね、片岡さんこちらの日、いきなり10万以上の出金があったようなのですが」
「あぁ、それはあんたらがよく関わってる物に対する出金さ。なけなしの金をこちらは苦渋を舐めながら引き出したそれだけだ。自動車税金のな、不審な出金は殆どがあんたらに関係してんだ」
きっとアニメとかドラマならここで目の前のテーブルを叩くなりし、提示された資料も一緒に叩きつけるか、バシバシ手で叩いてるだろう。
 
黙って聞いているふたりの表情は変わらない。少なくともそう映って見える、俺の瞳には。
 
「預金なのですがーー」
まだ調査とやらは続くようだ。
どれだけ居座られているのか、正直分からなかった1時間位だったのかもしれないし、2時間以上いたのかもしれない。
結果としては不問。
不問じゃねえんだよとキレている。
申請とやらはちゃんとしたし、調査される義理はない苛立ちを撒き散らしている主人の元へ、俺は向かう。
 
猫の俺にはわからないが、ご主人様は暫くこのチカチカビライラした感じを出したままだろう。
(俺のごはん、ちゃんとくれるよな?)
 
そう、俺のご主人様は以前は働いても働いても俺のごはんを買うためにも使うお金というものが堪らず、心が細く今にも切れてしまいそうな糸のようだった。
だけどある日から、俺のごはんが毎日出るようになった。
 
 ご主人様は社長っていう偉い人になったらしい。
社長がなんで偉いかは知らない。そう言ってた筈だ。
それからは書き物をしてることが多くなった。
そしてよく出かけていた、今日の嫌な奴はご主人様をこんな風にしたから悪いやつなのは確かだ。
 
何故急にご主人様が偉い人になったかは知らないけど、毎日ごはん食べられるのは最高。
「にゃぉあん」
ご主人様をなだめに行く。
「おー……ビーケー」
 
声が低い、これは相当やんのかコラ!態勢……。
俺は抱き抱えられて、そのまま抱きしめられる。
こういう時はされるがままでいるのがいい、俺が少し構ってやれば元のご主人様に戻る。
でも時々怖いと思う、いきなり殴られないかなとか、締めあげられないかな……と。
飼い猫になった俺には危機感が少し薄れてしまっている節がある、今はただご主人様に構ってやるのが1番。
 
「そりゃ副業的なものが上手くいったから、本業に切り替えたけどそれが今になってこの仕打ちとか……死ねよ」
 
当事者的な悪人を今目の前に言ってる訳では無い、これくらい吐かないと人間はやってられないらしい。金の怨みとはごはんの怨みくらい、人間には強く結びつく感情なのだとか。
あの悪人も人間、間違いもあるけどそれでも目の前に現れた感情をどこかに吐かないとやってられないのだ。
俺も時々吐かないとやってられない。
 
「ウェッポ……ウェッコッ……げぇぇっ」
「うっわ!ビーケー!」
「にゃぉぉ……」
(すまん、ご主人。毛玉出た)
 

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